Betaは本当に「負けた」のか

今回もまた懲りずに(笑)ソニーねたです。しかも内容重複をものともしない再度のBeta関係(笑)。それだけ80年代出身のAVファンにはなじみがあり、また良くも悪くもしがらみの深い因果関係にあるお題です。今回は当方も詳細なデータ的なことはあまり知らないので、あくまで表面的なことだけ語りたいと思います。

第一次ビデオ戦争

まずそもそも、ここでいう「勝った負けた」は何のことを指しているのか。「昭和な人」なら説明は不要でしょうが、「平成な人」にはもう通じないかもしれない。なので、改めて書いておきます。

その昔、1970年代。まだビデオが普及していない頃、家庭用のビデオは2派に分かれて「覇権をかけた」争いをしていました。それが、Sonyを盟主とする「ベータ」陣営と、JVC・松下を盟主とする「VHS」。10年近い抗争の結果、じりじりとシェアを拡大していたVHSが次第に有利な状況に。

80年代中盤。Beta陣営だった東芝、NEC、サンヨーがVHS陣営に寝返り。これを機に、なだれをうつように全てのBeta陣営がVHSへと転向。Betaの「民生用市場での敗北」は決定的となりました。

そして運命の1987年夏。当のSonyもVHSデッキの発売を表明。これにより、第一次ビデオ戦争はJVC・松下の勝利で幕を閉じたのでした。

…と、これが一応の全幕です。

VHSが勝った理由

 

なぜVHSが勝ったのか。これには諸説あります。

①VHSは基本録画時間が2時間だったため、アメリカの映画会社が優先してソフト供給した(Betaは当初は1時間記録が標準だった)。

②VHS陣営のなりふり構わない必勝体制は、アダルト業界を積極的に巻き込むという作戦にすら出て、これが想像以上に大きな影響を与えた(映画「陽はまた昇る」でも、それを暗に想起させるシーンがある)。

③Betaは技術指向が強すぎて、記録モードが濫立しマニアですら何が何だか分からない製品状況となった(テープ長も時間ではなく「L-500」などのフィート表示とされ、一般的にはまったく意味不明な数字だった)

④当時のSonyは今以上に(笑)開発者としてのプライドがものすごく高く、原則として他社へOEM供給を一切行わなかった。一方、VHSは規格自体をオープンにした上、積極的にOEMを行いファミリー作りに邁進した。

Betaは本当に「負けた」のか

というわけで。民生用市場はVHSの完全勝利で終わり、世間的にはBetaは大失敗・Sonyの大失敗ということで話は完結しています。

しかし。当方は必ずしもそうではないと思います。もちろんVHSがビデオ戦争にに大勝利したのは事実ですが、ではBetaがビジネス的に大失敗だったかというと、そんなことはないはず。

放送業界に携わっている人ならよくご存知と思いますが、その後Betaは、放送業務用として大発展します。しかも、あろうことか全世界・地球規模で「完全シェア」を達成していたのです。

ここでいう「放送業務用」とは、テレビ局で用いる記録再生規格のこと。当時は今のようなデジタル時代ではないため、記録再生フォーマットというのは文字通り「オールorナッシング」の世界。全部を取れるか、その逆か。それしかない時代だった。

そんな中、80年代~2000年代初頭まで。SonyはBetaシステムをベースにした「BETACAM(通称ベーカム)」シリーズを開発、放送業界に売り込み大成功を収めます。

特筆点は、上記の「オールorナッシング」の原則が2000年代まで続き、今なお残存していること。つまり、べーカムと再生互換性があるという理由で、ベーカムのデジタル版「デジベ」、そのHD版「HDCAM」と、20年以上に渡って生産され続けているという事実です。

民生用と業務用は「値段がけた違い」

以上のように説明すると、「…だって民生用の方がはるかに市場規模が大きいジャン」といわれそう。そうそのとおり。ビジネス的にも、おそらく民生用の方が大きいんでしょうね。

ただ、業務用は商品の値段がけた違いです。ここを忘れてはいけません。

たとえば。カムコーダーのBVW-400Aは、システム総額でいうとナント1台800万円くらいします。さらに、そのメンテナンスも(仕様によって異なりますが)1回で100万円近く取られることが珍しくありません。

基本のシステムは民生用Betaとそんなには違わない・つまり(ここだけの話)原価は大して違いもしないモノが、ゼロが何個も違うタヌキプライス(笑)で売られていたわけです。

口の悪い人に言わせればまさに「ボッタクリ(笑)」。しかも困ったことに、仮にボッタクリだったとしても当時はそれに代わるモノがなかった。さらに他では得られない、文字通り「最高性能」をベーカムが叩き出していた事実もあるのです。

(ベーカムに代わるものとして、松下とNHKの共同開発で「MⅡ」とかも発表されました。しかし性能・互換性の点で、ベーカムに対しそれこそ「ひっかき傷一つ」残すことができなかった)。

こうした事情があるため「Betaは負けた」とは必ずしもいえないわけです。いや、もしかしたらビジネス的にはむしろ大成功といえるのかもしれない。現在すでにVHSが販売終了しているのに対し、HDCAMはいまだに製造されているわけですから。

けんかに負けて勝負に勝ったBeta

答えは、もちろんノーだった。

まとめてみれば、Betaは「けんかに負けて、勝負に勝った」のかもしれません。その意味では、マスコミがあおる単純な「勝った負けた」の構図だけで話を片付けるのは正しくないかも。さまざまな側面(社内外の波及効果)への影響も加味して考えるべきなのかもしれません。

ちなみにですが、個人的にはBetaのデザインは最高にカッコイイものが多かったと思います。業務用はまぁ当然としても、特に80~90年代の民生用Betaデッキのあのカッコよさ(たとえば、SL-HF95Dなど)…これは間違いなく、当方のデザイン・美的感覚の原点になっています。事実、1985年には、SonyデザインだけをテーマとしたカタログをSony自身が制作し、販売店で配布しています。