報道制作・ノンリニア化の経緯

国内各局さまのデジタル化・ノンリニア化のあゆみについて考えます。全局さまがHD化してはや数年。現在はテープによるリニアメディアから、データによるノンリニアメディアへの移行が完了しつつある状況と思います。外注業者である我々としてもちょっと安堵の感もあるこのプロセス(笑)。今回もコラム的なタッチで考えてみたいと思います。

不思議な逆転現象が

最新のものを追い続けるのが放送業界。それゆえ、デジタル化・ノンリニア化もあっという間に進むと考えた人も多かったことでしょう。

事実、アメリカなど海外ではその動きは早かった模様。たとえばかなり前・1999年の映画「インサイダー」では、主演のアルパチーノが、マックブックでテレビ番組の編集を行っているシーンがありました。

一方、国内のデジタル化・それもテープベースからメモリーやデータへのノンリニア化については、とても不思議な現象が起きました。これまで、とにかく最新のものや最高のもの(値段も含めて)の移行は、潤沢な資金を保有する放送業界がまっさきに、という原則があった。

しかし国内のデータデジタルへの移行に関しては、なんと放送業界がもっとも遅れる、という形になったのです。

関連業者も含めた刷新が必要

具体的には。これまでベーカム・HDCAM・HDVといったビデオカセットで収録・編集・完パケを行っていた放送業界。局さまには潤沢な資金があるため、局内だけ機材を入れ替えるのはさほど  難しくはありません。

しかし放送業界は建設業界などと同じく、外注業者と歩をともに業務を行っている特性があります。つまり、局内だけ最新型にしてしまうと、外注で仕事を投げることができることがなくなってしまう。

これは外注業者はもちろん、局さま自体も困ってしまう。仕事が回らなくなってしまうからです。

こうした事情もあり、世間一般の民生用カメラはどんどんデータ化・ノンリニア化が進んだにもかかわらず、なんと最先端たる放送局がもっともデジタル・ノンリニア化が遅れる、といった逆転現象が起こってしまった。

少しづつのHD化・デジタル化

とはいえ。いつまでもテープで収録・編集しているわけにもいきません。そもそもテープベースはカネがかかって仕方がない。業務用のHDカセットは1本数千円もする上、安全を考えるとせいぜい5回程度しか使い回せない。デッキも2~3000時間でヘッド交換。しかも業務用、まして放送用ビデオデッキのメンテナンスは、場合によっては100万円近くかかる場合がほとんど。それもたった1台のメンテナンスで。

このように、毎日ヘッドをこすり続ける放送局のデッキ維持には、恐ろしいほどの維持費が必要になるのです。そんなスタイルは、今この時代にはそぐわしくありません。コスト管理の意味でも、編集のノンリニア化は必須でした。

ノンリニア化のもうひとつの「壁」

そして報道のノンリニア化については、現場ベースでもうひとつの大きな「壁」がありました。それが、編集スタッフの「高齢化」とノンリニア技術の「再教育」。これまで40年近くテープベースで現場をこなしていた放送業界。当然、編集室にはリニア編集の経験しかない、比較的高年齢のスタッフが主軸となっていました。こうした人たちにゼロからノンリニアの基礎知識と概念を再教育しなければいけないのです。

ここでの最大の問題は「高年齢&経験豊富」であること。この2条件が揃うと、一般にほとんどの人は他人の言うこと、まして若年の言うことなど聞きやしません。そんな相手に、ノンリニアの教育をしなければならない。ここに頭を抱えた管理職も多かったのではないでしょうか。

地デジをきっかけに大きく動き

以上のような経緯があり、難航した各局のノンリニア移行ですが、地デジをきっかけにどんどん変革は進んでいるようです。

とはいえ、今でもHDCAM完パケは多いですし、全くなくなったわけでもない。これからはさらに効率化の動きが加速されていくものと思います。