VHS素材が必要になったとき

映像の仕事をしていると、編集で「昔の映像を使う必要が」発生するものです。素材はVHSのことが多く、どのようにデジタイズするか迷うこともあるでしょう。今回はそんなお話です。題して「昔の映像素材への対応、いざというときあわてないために」。


放送制作といえば、素材は「高品質なベーカムやHDCAMでないと×」と思われるかもしれません。しかし制作側的には、画質より大切なものがあるのも事実。要は「いい番組」ができればいいわけだし、どんなに画質がよくても「ツマラナイ」内容、あるいは「数字のとれない」映像なら、何の価値もないわけです。

その意味では、実は「こうしなければいけない!」という技術的法律のようなものは何もない。フィルムだろうがVHSだろうが、問題なく見れればそれでいい。

そして昔の素材というのは、ご多分に漏れずやはりVHSが多いんですね。ベーカムも多いですが、多くはすでに廃棄済み。超重要なものについては局でデジタルアーカイブ済みです。今回のテーマは、そうしたデジタルアーカイブから漏れているが、局所的に必要になるアナログ素材をどうするか。

たとえば、編集で反映すべき素材が昔のVHS、および8mmビデオカセットで出てきたが、手元に再生機がなかった場合。

当然再生機を手配するか、ダビング屋さんに複製を依頼することになると思います。では、ダビング屋さんとデッキ手配は、どちらが得か。

実は今の時代、自分でデッキを手配する方が安くおトクに済むんですね。

今はオークションや中古販売のハードオフがあります。こうしたルートでデッキを入手すればいいのです。ただし。ここで注意すべきポイントがあります。それは「もし可能なら、VHSは『TBC搭載モデル』が絶対おススメ」ということ。

TBCとは「タイムベースコレクタ」のことで、アナログ素材再生の際に大なり小なり発生する「ジッター(画面のゆらぎ)」を、電気的に吸収してくれるもの。これの有無だけで、VHS(というか1/2アナログビデオ)の再生画質は天と地ほども差が出てしまうのです。

昔一度実験したのですが、同じS-VHSカセットを「TBC経由」と「スルーの絵」で比較してみたら。驚くほどの差がありました。「1/2コンポジットビデオって、TBCなしではまるでダメじゃん」というくらいの差だったのです。

なので。VHSデジタイズのためのデッキを手配するなら、ぜひともTBC内蔵のをお選びください。18年8月現在では、3000円程度で入手することができました(今後どうなるかは分かりませんが)。もし1台入手しておけば、将来的にも何かと役に立つことうけあいです。

ちなみに。デジタル機材に入力するなら別に再生機側でTBCは不要では? という意見もあるかもしれません(デジタイズ時には必ず記録側でタイムベースを補正するため)。しかし「入力信号の大元を最良の状態にしておく」ことは、オーディオビジュアルの基本中の基本。まして仕事で扱う素材なんですから、やはり再生機にもTBCはあった方がいいと思います。

また一方で、昭和の時代から(笑)局内におられる方ならどうしても「たとえVHSでも、民生用よりプロ用デッキの方がはるかに画質いいんじゃ?」と思われる向きもあるかもしれません。

しか~し!(これは後日別記事で改めてご説明しますが)、面構えだけプロ用だからといって、画質がよいというわけでは決してないのです。確かに局のラックに納まるサイズのプロ用VHSデッキって一応いろいろありましたけど、TBCが入っていないようなモデルだったら、VHS最後期の民生用TBC内蔵デッキの方が100倍マシです。

そういう意味でも、きちんと機材を理解したうえで上手に機材をストックしておくと、のちのち非常に役立つことでしょう。

以下は余談です。家庭用アナログビデオをデジタイズする際の豆知識。まずハイエイト・8ミリビデオですが、物理的に現存していても、残念ながら半数はダメになっている場合が多いです。ノイズだらけの映像になっていたり、あるいは再生中にテープが切れてしまったり。やはり基本的に1/2インチビデオと同じ技術でサイズだけ小さくした8ミリっていうのは、機械的に相当無理があるシステムだったんでしょうね。

それから中古でVHSを入手した場合。ぜひ接点クリーニングだけはしておきましょう。Amazonなどの通販で、接点復活剤を安価に入手可能です。単に端子に塗るだけですのでお手軽ですし、これをするしないだけでずいぶんと安定度に差が出るものです。ぜひお試し下さいませ。